なぜ秋になると葉っぱは赤く色づき、冬に散るのか?

秋の山々や公園を彩る紅葉(こうよう)は、心を奪われるほどの美しさです。そして、その美しい葉っぱは、冬が来る前に静かに地面に落ちていきます。
この一連の現象は、実は植物が寒い冬を乗り切るための、賢い「準備」なのです。葉っぱが色を変え、そして散っていく理由を、一つずつ見ていきましょう。
1. なぜ葉っぱの色が変わるのか? 紅葉のメカニズム
葉っぱが緑色から赤や黄色に変わる現象は、葉の中にある「色の素」のバランスが変化することで起こります。
① 緑色の主役「葉緑素(ようりょくそ)」が分解される
葉っぱが普段緑色に見えるのは、「葉緑素(クロロフィル)」という緑色の色素がたくさん含まれているからです。葉緑素は、太陽の光を使って水と二酸化炭素から栄養(デンプンなど)を作る、光合成という大切な役割を担っています。
しかし、秋になって日が短くなり、気温が下がると、木は「もうすぐ冬が来るから、栄養を作るのをやめよう」と判断します。そして、葉緑素を分解し始めます。
緑色の葉緑素が壊れて見えなくなると、今まで隠れていた他の色の色素が主役として浮かび上がってきます。
② 黄色の正体「カロテノイド」
葉緑素が分解されると、多くの葉っぱでまず目立ち始めるのが黄色です。
黄色い色素は「カロテノイド」と呼ばれ、実は春や夏にも葉緑素と一緒に葉の中に存在していました。しかし、葉緑素の緑色が強すぎて見えていなかったのです。葉緑素が消えることで、カロテノイドの黄色が鮮明に現れます。イチョウなどが黄色くなるのは、この色素によるものです。
③ 赤色の正体「アントシアニン」
葉っぱを鮮やかな赤色に変えるのが「アントシアニン」という赤い色素です。
これはカロテノイドと違い、秋になって気温が低くなり始め、さらに日光が当たると、葉っぱの中で新しく作られる色素です。モミジなどが赤くなるのはこの色素のおかげです。
なぜわざわざ赤色を作るのかについては、「太陽の光から葉を守り、残ったわずかな栄養をゆっくり幹に戻すため」など、いくつかの説があり、今も研究が続けられています。
2. なぜ冬になると葉っぱを散らすのか? 生き残るための賢い選択
美しい色に染まった葉っぱは、その後、冬の寒さが本格化する前に地面に落ちていきます。この現象を落葉(らくよう)と呼びます。
ちなみに落葉(おちば)と読むと落ちた葉っぱのことを指すようです。
① 水分を節約するため
冬の寒さが厳しい時期、地面が凍ってしまうと、木は水を吸い上げることが難しくなります。
ところが、葉っぱの表面からは、一年中、水蒸気が空気中へ逃げています(蒸散といいます)。葉っぱをつけたまま冬を迎えると、水を補給できないのに、体内の水分をどんどん失ってしまい、木全体が枯れてしまう危険があります。
そこで木は、水分を守るために、一番水が逃げやすい「葉っぱ」を思い切って切り離すという選択をするのです。
② 葉を切り離す仕組み
葉を落とすとき、木は葉の付け根に「離層(りそう)」と呼ばれる特別な層を作ります。
この離層は、葉と枝との間に壁を作り、水や栄養の通り道を完全にシャットアウトします。そして、この層が弱くなることで、葉っぱは風や重みで簡単に枝からポロッと外れるようになります。
このように、葉を落とすことは、木が過酷な冬を生き延びるための、非常にシンプルで合理的な「断捨離(だんしゃり)」だと言えます。
3. まとめ:自然の驚くべき準備
葉っぱが色を変え、そして散っていくという一連の自然現象は、一見するとただの「枯れていく姿」に見えます。しかし、その裏側には、
- 葉緑素を分解し、エネルギーを節約する賢さ。
- 厳しい冬に備え、水分を徹底的に節約するための断固たる決断。
という、植物が持つ生存戦略が隠されていました。
毎年秋になると、木々は静かに、そして力強く、次の春に向けての準備を始めているのです。

