なぜ魚は水中で生きられる? エラに隠された驚異の呼吸メカニズム

私たちが空気中の酸素を取り込んで息をするように、魚たちは水中の酸素を利用して生きています。水の中で自在に呼吸できる魚の能力は、地球上の生命が進化の過程で獲得した驚異のメカニズムです。
今回は、魚の呼吸器官であるエラ(鰓)の精巧な構造と機能に焦点を当て、そのひみつを深掘りします。
1. 魚の呼吸器「エラ」の驚異的な構造
魚が水中で息をするために欠かせないのが「エラ」です。エラは、人間の肺とはまったく違う方法で、水中の酸素を取り込むために最適化されています。
① エラの基本構造
エラは、魚の頭部の両側、またはエラ蓋の下にあります。私たちが目にするエラは、実はいくつもの「エラ弓(きゅう)」という骨のようなアーチ状の構造の上に、たくさんの「エラ弁(べん)」というヒダヒダが付いた形をしています。
このエラ弁にはさらに細かい「エラ薄板(うすいた)」が無数に並んでいます。この薄板があるおかげで、水と触れる表面積が非常に広くなり、効率よく酸素を取り込めるようになっています。
② 「対向流(たいこうりゅう)システム」のひみつ
エラが水中のわずかな酸素を効率よく体内に取り込める最大のひみつは、「対向流交換」という仕組みにあります。
- もし同じ方向に流れた場合、酸素の濃さは途中で同じになってしまい、それ以上酸素を取り込めなくなります。
- しかし、反対方向に流れることで、血液は常に自分よりも酸素濃度の高い水と触れ合うことになります。
この対向流システムのおかげで、魚は水に溶けている非常に薄い酸素を、約80%もの効率で取り込むことができるのです。人間が空気中の酸素を取り込む効率(約25%)と比べると、その凄さがよく分かりますね。
2. なぜ魚は「空気中」では息ができないのか?
高い効率で酸素を取り込むエラですが、水から出た途端、その機能は失われてしまいます。
① 構造の崩壊と乾燥
エラ弁やエラ薄板は、水の中でこそ浮力(ふりょく)によって広がり、対向流システムを正常に機能させることができます。しかし、魚が水から出ると、エラのヒダヒダ同士が重力でくっついてしまい、ペタッと潰れてしまいます。
こうなると、水と接触していた広い表面積が失われ、酸素交換ができなくなります。さらに、エラが急速に乾燥してしまうことも、致命的です。
② 酸素の量は逆転している
私たちがいる空気中には、水中に比べてはるかに多くの酸素が含まれています(空気中の約21%)。にもかかわらず魚が息ができないのは、その呼吸器官の構造が、空気中の酸素を利用するようにできていないためです。
人間が肺で空気中の酸素を取り込むように、エラは水中の薄い酸素を、濡れた状態でしか取り込めないのです。
3. 水面で「パクパク」する理由
魚が水面で口をパクパクと開閉させる様子を見たことがあるでしょう。これは、魚が「息苦しい!」と感じているサインです。
① 水中の酸素不足
魚が水面でパクパクする主な理由は、水中に溶けている酸素が不足しているためです。特に、夏場の水温が高いときや、水槽の中に魚が多すぎるときに起こりやすいです。
- 高温の影響: 水は、水温が高くなると、酸素を溶かすことができる量が減ってしまいます。
- 富栄養化の影響: 池や川で植物プランクトンなどが異常に増え、夜間に大量の酸素を消費してしまうことも原因となります。
② わずかな高濃度酸素を求めて
水面に近いごく浅い層は、空気と触れているため、水中の他の部分よりも少しだけ酸素濃度が高いことがあります。魚は、この水面の酸素濃度の高い水を、効率の悪い状態でも必死で口に取り込み、生き延びようとしているのです。
また、パクパクすることで空気中の酸素を水中に溶かし込もうとしているという説もあります。
4. まとめ:進化がもたらした奇跡の機能
魚が水中で呼吸できるのは、
- 水を流れる血流と逆行させる「対向流システム」で、効率よく酸素を吸収するため。
- エラにある無数のヒダヒダ(エラ薄板)で、圧倒的な表面積を確保しているため。
でした。彼らのエラは、低い酸素濃度という環境下で生きるための、生命の進化が生み出した奇跡のメカニズムと言えるでしょう。この素晴らしい機能を守るためにも、水環境を大切にしたいですね。

